読書的な何か。

読書と読書にまつわるテクノロジー、雑記など。

映画『ザ・ウォーカー』

本が出てくる映画について、いろいろ思ったことを書こうという趣旨です。

ザ・ウォーカーは2010年の米映画。主人公はデンゼル・ワシントン。個人的には『ペリカン文書』のイメージが強いですが、『トレーニングデイ』でアカデミー主演男優賞を受賞しているそうです。

www.youtube.com

どんなお話かというと、以下、Wikipediaのあらすじの転載ですが、

最終戦争によって国家も文明も滅びた世界を旅する男(ウォーカー)イーライがいた。彼は、30年間もアメリカを西に歩き続けている。目的地は何処なのか、彼にもわからない。ただ、「本を西へ運べ」という心の声に導かれるままに歩き続ける。

一方、とある本を探し続ける独裁者の男カーネギーがいた。彼は、旧来の秩序さえもが滅びたことを良いことに理想の町を作ろうと企てていた。

そして、イーライはカーネギーが仕切る町に立ち寄る。カーネギーは探していた本をイーライが持っていることに気づき奪おうと企てる。

 といった感じです。

最後の一冊となった本の内容は何か。ウォーカー(黒人)⇔独裁者(白人)。この対比は何を意味するのか。イーライが行き着く「西」で、本はどうなるのか・・・等々、見どころが多い作品です。

文明の礎=本、という構図はうまいなと思いました。人々が信じる力と、そんな人々に複製して届けられる技術。これらが、退廃した新世界でふたたび生み出される過程を描いた、とでもいう感じでしょうか。

「あれは本じゃない。兵器だ。」って言葉が印象的な映画でした。

以下、通な方々の映画批評です。

movie.maeda-y.com

ameblo.jp

 本も出ていたみたいです。

ザ・ウォーカー (角川文庫)

ザ・ウォーカー (角川文庫)

 

 

読書身体化試論

劇作家・寺山修司著作を編纂した『両手いっぱいの言葉―413のアフォリズム (新潮文庫)』。様々なキーワードを切り口に、寺山修司の考え方を鮮やかに表現しています。その中に「書物」の項目もありました。非常に面白い視点だったので、ちょっとだけ、ご紹介します。

書物の項には、以下のような文が載っていました(他にも載っていましたが、doksyo-tekが気になった2文のみ抜粋しています)。

p197

 目と書物とは、二十センチ位の距離を保っているとコミュニケーションが成り立つが、それ以上近づくとぼやけてしまうし、それ以上遠ざかると、読めなくなってしまう。

 ロートレアモンの詩もマルクスの論文も、わずか二十センチの距離を保つことによって存在してきたものにすぎないのだ。そう思うと、いささかの虚しさが感じられる。

 世界中の読書人たちは、書物に向かって全速力で走ることも、書物に肌を密着させることも、書物と壁ごしに語り合うこともできない。

- 青蛾館 -

p198

 書物を嫌いになったのは、私が健康をとりもどすようになってからである。

 読むためには、肉体は沈黙を余儀なくされ、椅子に腰かけるかベッドに横たわるという「安静」人形のような状態が必要だということに気づくほど、私は恢復していたとも言えるだろう。「読書家というのは結局、安静状態の長い人という意味ととれないこともないな」と私は思った。読書とは、もっとも反行動的な実践なのだ。

- 東京零年 -

いずれも、書物を読むという行為は、身体的な動きを抑えるもので、それを解き放つ必要があるというメッセージのような気がします。

そういえば、彼の代表的な著作は『書を捨てよ、町へ出よう (角川文庫)』でした。まさに、書に捉われて、安静人形のようになってしまうのであれば、もっと体を動かせる、活動的なことがらに目を向けようということなのだと思います。

だとすれば、町へ出る=身体的な解放、を表現できる読書形態が提示できれば、それは新しい読書環境への足掛かりになるかもしれません。具体的には、、、どんなものなのか。町へ出て考えることにしようと思います。

両手いっぱいの言葉―413のアフォリズム (新潮文庫)

両手いっぱいの言葉―413のアフォリズム (新潮文庫)

 
書を捨てよ、町へ出よう (角川文庫)

書を捨てよ、町へ出よう (角川文庫)

 

 

AIブックコンシェルジュ

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はじめに

2016年10月28日(金)~11月10日(木)の間、青山ブックセンターでAIブックコンシェルジュのイベントが開催されたようです。

AIブックコンシェルジュとは、AI(人工知能)を搭載したロボットが書店員に代わって本のオススメをしてくれるというもので、今回のロボットはFRONTEOのKibiro、解析用の人工知能には同社が開発したKIBITが使われています。また、解析で用いるデータには、Booklogのブックレビューデータが使われているようです。

robotstart.info

AIブックコンシェルジュのしくみ

夏頃、いわゆるチャットボットであるフミカbotが本をおススメしてくれる話について言及しましたが、KibiroのKIBITはさらに少し進化しており、ユーザの好みに合わせたオススメをしてくれます(フミカbotのロジックの延長にKIBITがあるかわからないので、進化という表現は不適切かも)。

doksyo-tek.hatenablog.com

KIBITは以下のステップで人間の判断を実現する、いわゆる教師ありの機械学習エンジンです。

  1. 非定型の自然文から、形態素解析によって品詞の特定や単語の抽出を行う
  2. 単語やセンテンスの重要度をユーザの判断毎に算出し、特徴軸を最適化する
  3. 最適化した特徴軸に沿って、他のデータに含まれる単語や単語間の関係を評価(スコアリング)する
  4. ユーザの意図に合致する可能性が高い順にデータ全体を並べ替える

今回は、ユーザがベストセラー30冊からピックアップした本(のBooklogレビューデータ)を用い、ユーザの特徴軸(好み)を抽出し、それにより近しい特徴軸を持つ本をおススメ本として返しているようです。特徴軸って、特徴量のことでしょうか。

簡単な解説は下記に、詳細なアルゴリズム等は「研究開発報告書」に記載されていますので、ご興味があればどうぞ。

www.fronteo.com

世の中の反応

hon.booklog.jp

robotstart.info

hon-hikidashi.jp

所感

これからという感じが強い人工知能ですが、技術面においては、様々なシーンに浸透しつつあり、その存在感たるや目を見張るものがあります。

ただ、今回のようにAIが本をおススメすることについては、今一度考察があってもいいかもしれません。

例えば、Amazonのオススメ(この本を読んでいる人はこの本も読んでいます)、ちょっとうっとおしいなと思った方、けっこういるのではないでしょうか。オススメって意外と難しく、適切な人が、適切なタイミングで、適切な本をおススメしないとハマらない、けっこう難易度の高い行為なのだと思います。

近年のデータ解析技術を使えば、適切なタイミングやタイトルの推定はできるかもしれません。しかしながら、もっとも重要な要素は、それを「誰が」オススメするか、ということなのではないかと思うのです。

自分が尊敬する人、自分が愛する人、あるいは、自分が試してみたい体験を既にやっている人、などなど。。ロボットではそう簡単に真似できないことかもしれません。Kibiroにせよ、フミカbotにせよ、ユーザが「満足のいくオススメをしてくれた」と思うには、そのユーザにとって大事な「誰」になれているかどうか、信頼性の高いユーザ体験を提供できる存在になれているかどうか、が重要なのだと思います。

参考

UX戦略 ―ユーザー体験から考えるプロダクト作り

UX戦略 ―ユーザー体験から考えるプロダクト作り

 
UXデザインの教科書

UXデザインの教科書

 
今日からはじめる情報設計 -センスメイキングするための7ステップ

今日からはじめる情報設計 -センスメイキングするための7ステップ

 

 

『戦略読書』定点観測 - 2016年10月

はじめに

戦略読書・10月の定点観測です。

図1は、読書ポートフォリオ・マトリクス(PRM)を整理したものです。

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図1.読書ポートフォリオ・マトリクス(RPM

定点観測(2016/10)

上記RPMに基づいて実施した10月の定点観測結果です。

ビジネス基礎

なし

 

ビジネス応用

ザ・セカンド・マシン・エイジ

ザ・セカンド・マシン・エイジ

 
働き方、テクノロジー、未来社会と自分たちのあり方を考えることができる一冊。400ページを超える論考は多くの引用に支えられており、読み応えがある。

 

非ビジネス基礎 

はたらく細胞(1) (シリウスKC)

はたらく細胞(1) (シリウスKC)

 
擬人化した細胞が身体中で起こる様々なことがらに対応していく物語。これはわかりやすいし、かなり面白い! 既刊全部読みたい。

 

 

青空エール映画化スペシャル (SHUEISHA Girls Remix)

青空エール映画化スペシャル (SHUEISHA Girls Remix)

 
若い! 若い! でも、ほほえましい。やっぱり青春時代って甘酸っぱいなぁ。「内容・考える集中する・言われたことの意味を考える」って大人になってもだなぁ。深く考えている人って、やっぱり強くなる。

 

 

文豪の名前のキャラクターと、昔の文体。話はとても不思議な独特の世界観に包まれている。最初は感情移入するの大変だったけど、慣れてくるとクセになる。
あとがきにある、この物語が生まれたきっかけ。「文豪がイケメン化して、能力バトルしたら絵になるんじゃないかと、編集と盛り上がったから」ほぇー。

 

 

七瀬ふたたび (新潮文庫)

七瀬ふたたび (新潮文庫)

 
これ、三部作だったのか! 最後が性急な感じもしたけど、「超能力者は何のために生まれてきたのか」っていう半ば哲学的な問いはよかった。ジェノサイドにも通じる、人類進化の一過程なのかも。なんて。

 

非ビジネス新規 

日本の給料&職業図鑑

日本の給料&職業図鑑

 
面白い視点。好きな職業、意外な職業。いろいろあるんだね。しかし、東洋経済的なランキングと異なっているのがいい。もう一冊、姉妹本があるみたいで、そちらも気にある。

 

散歩の達人 2016年 11 月号 [雑誌]

散歩の達人 2016年 11 月号 [雑誌]

 
散達によるブックマップ。東京に作られつつある、新しい本の街を、様々な切り口で紹介。表紙の「書店も一つの作品なのです」というフレーズ、納得した。

 

どの書店でも、目につくところに平積みされていた気がしたので読んでみた。なっとくのいいフレーズがたくさんあって、買ってよかった。やりたくないことを工夫して変える楽しさ、あえてスルーする力、そして許容する力。いろんな角度からいろんなことを学べる、かも。

 

レバレッジ・リーディング』のカウンター本として。詳細は書評『本は10冊同時に読め!』にしたためてみました。

 

分析

以下は、10月のRPM分布と、累積(1~10月)のRPM分布です。

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図2.10月のRPM分布

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図3.累積のRPM分布

今のところ、以下のような実績と予測になっています。

実績

 冊数時間
10月 13冊 24時間
1~10月 150冊 307.5時間

予測

 年間冊数※1総読書時間※2
予測値 180冊
(月平均15冊)
369時間
(月平均30.75時間)

※1 150冊÷10ヵ月=月平均15冊、15×12ヶ月=年間冊数180冊
※2 307.5時間÷150冊≒1冊あたり約2時間、約2時間×180冊≒369時間

今年も残すところ2か月となり、いよいよ目標に達成できるか見えつつあります。冊数はクリア、読書時間も、月20時間を確保できればクリア。1~10月の実績と照らし合わせると、まぁいけるんじゃないかという感じです。

最近の読書で思うこと。ガッシリした、重い本が楽しい。先月の『ジェノサイド』は文庫だけど上下巻だし、今月の『ザ・セカンド・マシン・エイジ』などは400ページ超の大作。でも、大意も気になるフレーズも、押さえつつ読めてる気がします。

これは戦略読書をするに際し心掛けている「読み方」の効果がじわじわと表れているからかもしれません。まぁ読み方とか、実際はそんな大げさなものではなく、

①丁寧に読みつつ、気になるフレーズが出てきたら付箋をつけていくだけです。そして、②細切れに読む。そんなにまとまった時間は取れないので。さらに、③読み始めにはこれまで付箋をつけた箇所をざざっと見返す。

ただこれだけです。ですが、意外と頭を読書に切り替えるのには向いているやり方なのかもしれません。このやり方については(効果測定はできませんが)一度まとめてみたいなと思っています。

今年は(最近は)読書の秋を楽しむほど秋が長くなくて、あっという間に冬を迎えてしまっている気がします。ならば、冬の夜長?!にコタツで読書してやろうじゃないですか。ぬくぬく読書、楽しみますよ~。

参考

TPAC2016にみる電子出版の未来

はじめに

TPACってご存知でしょうか。World Wide Web Consortium(W3C) Technical Plenary / Advisory Committee Meetings Weekの略で、ティーパックと読みます。W3CWeb標準化の団体)が年一回開催する、専門家による技術集会のようなもので、これからのWebを考える上でとても大事な会議になっています。

今年のTPAC2016は、9月にポルトガルリスボンで開催され、未来のWebに向けた技術ロードマップが示されました。

www.w3.org

この中に、読書技術(というよりも、広く電子出版一般)に関することがらも述べられていたので、勉強がてら紹介し、考察してみます。

電子出版に関すること

Digital Publishing - The Publishing Community and Digital Publishing Interest Group are collaborating on the evolution of electronic books and how to bring the requirements of authors, publishers and readers to the Web for richer reading and learning experiences, both online and offline.

上記は、ロードマップに示されていた電子出版に関することがらです。意訳すると、「より豊かな読書体験・学習体験を実現するために、どのように著者/出版者/読者の3者の要望をWebに取り入れていくか、議論を続けている」とのこと。

ちなみに、このロードマップでは、Accessibility、Entertainment、Open Web Platform、Payment等々、読書技術に関連する事柄についても言及していますので、一読しておいても良いかもしれません。

更に、具体的な議論は、下記に参考情報があります。IRCのLogも公開済みです。

Agendaによると、以下の項目が議題だったようです。

  1. W3CとIDPFが議論
  2. EPUB3.1とEPUB for Education
  3. Open Web Platform上のPortable Document
  4. Accessibility
  5. Open Web Platform上の出版社
  6. Webベースの出版
  7. EPUBとWeb出版のツール類

W3Cは、EPUBを推進してきたIDPFと歩み寄りを進めていると聞きます(細かい部分で様々な意見があるようですが)。そこでは、HTML5+CSS3をコアとして、次期バージョンアップ版であるEPUB3.1、教育向けEPUBアクセシビリティ対応、そしてHTML5をベースとするオープンなWeb環境での出版のありかたについての議論が繰り広げられたようです。

所感

上記の議論を受けて、doksyo-tek的な整理をしてみたいと思います。

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図1.オープンなWeb環境での電子出版

いろいろ考えて絵にしてみたのですが、考えた末に単純化した結果、別に絵にしなくてもみんなわかっていること、みたいになっちゃいました。

この絵のポイントは、これらがOpen Web Platform上で簡便に実現できるようになりつつあるということ。つまり、著者は表現したいことが、出版者は配りたいものが、読者は読みたいものが、ワンストップにWebを介してつながってきました、ということだと思うのです。

著者の表現が文字のみならず絵やインタラクションに広がることもありますし(Entertainment)、読者の閲覧環境は様々なハンディキャップに対して同等でなければなりません(Accessibility)。また、価値に対する対価の決済はスムースに行える必要があり(Payment)、これらの管理・運用は容易であったほうがよい(Open Web Platform)。

まぁ言うは易しですが、実際の流れは、フィードバックや修正等があったり、不具合が起こったりと、もっともっと複雑であることは事実です。ただ、根本的にはこの絵に示した非常にシンプルな流れがWebでできるようになったということは、今後の電子出版にとってはとても大きなプラスなのだと思います。

と、なんだか総花的なしめくくりになってしまいましたが、まずはIRCLogをつぶさに眺めて、もう少しリアルな各論に落とし込んでみたいなと思います。