運動よりも食事よりも読書が大事!?
はじめに
昨年10月にNHKで放送された「AIに聞いてみた どうすんのよ!? ニッポン 第3回 健康寿命」。健康寿命を延ばすために、AIが導いた答えのひとつが、読書でした。
そもそも健康寿命とは何か。いわゆる平均寿命は死を迎えるまでの期間ですが、そこに至るまでには、医療や介護が必要な「健康でない」期間が存在します。それに対し、健康寿命とは「心身ともに自立し、健康的に生活できる期間」のことを指します。
ちなみに、日本人の平均寿命は男性81.09歳、女性87.26歳。それに対し、日本人の健康寿命は男性72.14歳、女性74.79歳らしいです。平均寿命と健康寿命の差が短ければ短いほど、ある意味幸せに人生を全うできるというもの。そのため健康寿命を延ばすことを考えるわけですが、そのキーとなるのが読書らしいのです。
AIひろしが作り出したネットワーク
なぜ読書がキーなのか。それを知るためには、AIが作ったネットワークが重要になります。これがすごい。さすがNHKという感じです。具体的には、次のような形でネットワークを作ったそうです。
- 65歳以上のべ41万人分の生活習慣や行動に関するアンケートをとる
- 質問数600以上、10年以上の追跡調査をする
- 質問の関連性(ある質問に「はい」と答えた場合、他の600のどの質問に「はい」と答えているか等)を調べる
- これらはAI手法であるベイジアンネットワークなど、複数の機械学習を組み合わせて使用する
- 約18万通りを調べる
こうやって、関係の近いもの同士を近くに配置し、ネットワークを構築します。さらに、アンケートに基づき、その質問が健康に関係するなら赤、不健康に関係するなら青、どちらとも言えないなら白、として色分けもします。こうして、まさに膨大なデータからネットワークを作ったとか。いやはや。よく人工知能はデータが大事だと聞きますが、まさにデータがあってのネットワークのようです。
運動よりも食事よりも読書が大事!?
さて、こうやって作ったネットワークから見えてきたのが、どうやら「健康要素に一番多くつながる行動は「本や雑誌を読む」」ということ。これが、健康要素119個、不健康要素0個で、運動や食事と比べてもダントツに多くの健康要素とつながっていたそうです。
表1 特定質問における健康要素/不健康要素
項目 | 健康要素 | 不健康要素 |
本や雑誌を読む | 119 | 0 |
野菜や果物を毎日2回以上食べる | 99 | 6 |
スポーツグループに週1回参加 | 39 | 0 |
なぜ、このような結果になったのでしょうか。番組では、健康寿命県の山梨県を取材するとともに、ある論文をエビデンスとして示していました。
山梨県のスペックは次のとおりです。
- 健康寿命 男性全国1位、女性全国3位の山梨県
- 人口10万人あたりの図書館数が全国1位(山梨は6.59館。全国平均は2.61館)
- 山梨県立図書館は年間92万人が利用(H29)。山梨県人口は85.5万人。
エビデンスの論文はこちら。
- Bavishi,A et.al.(2016) "A chapter a day: Association of book reading with longevity."(米国イェール大学が発表した、読書と長寿の関連性に関する論文)
論文によれば、50歳以上の約3,600人を読む人・読まない人に分けて調査したところ、読む人の寿命は23ヶ月長く、また彼らには性別、健康状態、財産、学歴などに関係がなかったとか。つまりこれは、単純に読書をする人はその周辺環境に関わらず、健康寿命を延ばすことができる可能性を示唆しているわけです。すごい!!
考察
出演者のマツコ・デラックスさんが声を大にして主張していましたが、本当にこれは画期的。これまで健康という文脈はどうしても体を動かす、食事を改善するという側面ばかりがフォーカスされてきた気がします。それに対して、今回AIが導出した答えは読書。ご意見番の千葉大学・近藤克則教授(AIひろしの分析を担当された先生)によると、「ある地域で、どういう地域に要介護の人が少ないかを分析したところ、図書館が近くにある人は要介護リスクが低いというデータもある」のだとか。
物理的な部分だけでなく、読書を通じて「頭を鍛える」ことで日々の生活や行動が豊かなものになり、ひいてはそれが健康寿命を延ばすことにもつながっているのでしょう。
コメンテーターの方々も、次のような利点を述べられていました。
- 「心が動くと体が動く」。本や雑誌を読むことは行動を起こすきっかけを与えてくれる。
- 知的刺激を受ける、次に何を読もうか予定を考えることは活性化につながる。これはタブレットでも同じ。
- 「本を読む」ことは「自ら面倒なことをしに行く」こと。この行為には活力や向上心がある。
- 山梨は昭和20年代から学校司書を配置してきた。この制度が幼少からの読書習慣を根付かせたのではないか。
- 初等教育をしっかり受けることは、認知症を減らす効果にもつながるという研究もある。
- 地域の中心部に、夜遅くまでやっている図書館を1つ作ることで、日本全体の健康寿命促進の効果があるかもしれない。
- 図書館や司書の配置は、医療に比べコストがかからない。
doksyo-tekの感想
うーむ。すごい。いいことづくめですね。これは実証実験としてどこかの地域で試してもらいたい。今も文科省を中心に読書推進の政策が作られていますが、他省庁も加わって、低コスト・高効率な健康寿命モデルを作ったらいいと思います。というか、この番組が放送されたのが昨年10月だから、もう今年度あたり具体的な施策として取り入れている自治体があるかもしれませんね。国や自治体の活動も合わせて調べてみようと思います!
補足
ちなみに、なんでこのタイミングでの投稿なのかと言いますと、たまたま時間ができ、そしてたまたま自宅HDDを整理していたらまだ見ていない本番組にめぐり合ったという、それだけの理由です。ただ、内容がとてもすばらしかったので、自分の理解も含めて書き記しておこうと思った次第です。久しぶりのブログで失礼いたしました!
補足2
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