読書的な何か。

読書と読書にまつわるテクノロジー、雑記など。

PISA型読解力に見る、読解力の現状と今後

1.はじめに

なんか大きなタイトルを掲げてしまいましたが、PISA型読解力って何? 現状は? 今後は? みたいな点をdoksyo-tekなりにまとめたメモになります(一部、突拍子もないことも述べていますが)。短めのメモなので、サラサラっと読んでいただければと思います。

2.PISA型読解力とは

読解力の定義のひとつに、PISA型読解力があります。

PISAとは、OECD経済協力開発機構、Organisation for Economic Co-operation and Development)が進めている「国際的な学習到達度に関する調査」(Programme for International Student Assessment)のことです。

www.oecd.org

日本の場合、国立教育政策研究所がその実施を担っており、2000年から3年おきに実施されています。その実施内容は、以下のページに丁寧にまとめられています。興味のある方はぜひ一通り眺めてみるのはありだと思います。

www.nier.go.jp

PISA型読解力とは、「自分の持っている知識を活用しながら資料やデータを深く読み取り、それに解釈や評価を加えてわかりやすく表現する力」のことを意味します。この力は、これからの基礎学力であり、そして求められる力として、注目されています。

3.読解力向上プログラムと施策

PISA型読解力では、より具体的に次のような特徴を有するものを「読解力」として定義しています。

  1. テキストに書かれた「情報の取り出し」だけではなく、「理解・評価」(解釈・熟考)も含んでいること。
  2. テキストを単に「読む」だけではなく、テキストを利用したり、テキストに基づいて自分の意見を論じたりするなどの「活用」も含んでいること。
  3. テキストの「内容」だけではなく、構造・形式や表現法も、評価すべき対象となること。
  4. テキストには、文学的文章や説明的文章などの「連続型テキスト」だけでなく、図、グラフ、表などの「非連続型テキスト」を含んでいること。

2003年に実施されたPISA調査では、日本は読解力がOECD平均程度まで低下していたそうです。そこで、文部科学省は2005年12月に「読解力向上プログラム」を発表します。

www.mext.go.jp

これは、上述の読解力を向上させるため、次の3つの目標が掲げられています。

  1. テキストを理解・評価しながら読む力を高める取組の充実
  2. テキストに基づいて自分の考えを「書く力」を高める取組の充実
  3. 様々な文章や資料を読む機会や、自分の意見を述べたり書いたりする機会の充実

この目標を具体的に遂行するため、学習指導要領と、全国学力・学習状況調査の両面で様々な施策が進められてきました。

学習指導要領:「言語活動の充実」という方向性の提示。具体的には以下のようなこと。

  • 国語力:
    • 漢字の読み書き、音読、暗唱、対話、発表などによる国語の能力
  • 知的活動の基盤:
    • 観察、仮説、比較、分類、関連付け、帰納的/演繹的説明、結果の評価やまとめなどの能力
  • コミュニケーションの基盤
    • 音楽、図工、体育から感じ取ったことの、言葉や歌による表現

全国学力・学習状況調査:国語と算数(数学)において基礎的学力A、活用型学力Bを測るという施策

  • 活用型学力Bは、資料から読み解くタイプの問題

4.2015年のPISA調査

このような施策を打ってきたにもかかわらず、2015年のPISA調査では、読解力の結果が芳しくなかったようなのです(図1の「読解力」の推移を参照)。

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図1.PISA2015の平均得点及び順位の推移

doksyo-tekも「読書的ニュース」で取り上げていました。

doksyo-tek.hatenablog.com

この状況で次の一手は何か。とりあえずは学習指導要領にPISA型読解力の必要性が喚起されたそうですが、doksyo-tekはさらなる策が必要なのではないかと思っています。

5.PISA型読解力を高める施策

最近ですとInstagramやTik-tokなど、画像系・動画系の投稿アプリがさかんに使われています。例えば、これらを用いて、投稿された画像の意図を読んだり、どういう脈絡で自分のタイムラインに出現したのか、等を考えてみるのはどうでしょうか。さらに、その考えはアウトプットとしてSNS上にコンパクトに言葉で投稿する。そうすることで、観察・仮説・説明・表現といった多くの手法を具体的に学んでいくことができるのではないでしょうか。

まぁ、なかなかぶっ飛んだことを書いているなということはわかっています。それに、投稿アプリを使っただけではPISAの求める読解力はカバーしきれていないこともわかります。ただ、なじみやすさというユーザビリティの観点からみると、指導要領や調査だけではなかなか難しい「即効性のある効果」を出せる可能性があるのではないか、などと思うのです。

参考文献

運動よりも食事よりも読書が大事!?

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はじめに

昨年10月にNHKで放送された「AIに聞いてみた どうすんのよ!? ニッポン 第3回 健康寿命」。健康寿命を延ばすために、AIが導いた答えのひとつが、読書でした。

www6.nhk.or.jp

そもそも健康寿命とは何か。いわゆる平均寿命は死を迎えるまでの期間ですが、そこに至るまでには、医療や介護が必要な「健康でない」期間が存在します。それに対し、健康寿命とは「心身ともに自立し、健康的に生活できる期間」のことを指します。

www.jili.or.jp

ちなみに、日本人の平均寿命は男性81.09歳、女性87.26歳。それに対し、日本人の健康寿命は男性72.14歳、女性74.79歳らしいです。平均寿命と健康寿命の差が短ければ短いほど、ある意味幸せに人生を全うできるというもの。そのため健康寿命を延ばすことを考えるわけですが、そのキーとなるのが読書らしいのです。

AIひろしが作り出したネットワーク

なぜ読書がキーなのか。それを知るためには、AIが作ったネットワークが重要になります。これがすごい。さすがNHKという感じです。具体的には、次のような形でネットワークを作ったそうです。

  • 65歳以上のべ41万人分の生活習慣や行動に関するアンケートをとる
  • 質問数600以上、10年以上の追跡調査をする
  • 質問の関連性(ある質問に「はい」と答えた場合、他の600のどの質問に「はい」と答えているか等)を調べる
  • これらはAI手法であるベイジアンネットワークなど、複数の機械学習を組み合わせて使用する
  • 約18万通りを調べる

こうやって、関係の近いもの同士を近くに配置し、ネットワークを構築します。さらに、アンケートに基づき、その質問が健康に関係するなら赤、不健康に関係するなら青、どちらとも言えないなら白、として色分けもします。こうして、まさに膨大なデータからネットワークを作ったとか。いやはや。よく人工知能はデータが大事だと聞きますが、まさにデータがあってのネットワークのようです。

運動よりも食事よりも読書が大事!?

さて、こうやって作ったネットワークから見えてきたのが、どうやら「健康要素に一番多くつながる行動は「本や雑誌を読む」」ということ。これが、健康要素119個、不健康要素0個で、運動や食事と比べてもダントツに多くの健康要素とつながっていたそうです。

表1 特定質問における健康要素/不健康要素

項目 健康要素 不健康要素
本や雑誌を読む 119 0
野菜や果物を毎日2回以上食べる 99 6
スポーツグループに週1回参加 39 0

なぜ、このような結果になったのでしょうか。番組では、健康寿命県の山梨県を取材するとともに、ある論文をエビデンスとして示していました。

山梨県のスペックは次のとおりです。

  • 健康寿命 男性全国1位、女性全国3位の山梨県
  • 人口10万人あたりの図書館数が全国1位(山梨は6.59館。全国平均は2.61館)
  • 山梨県立図書館は年間92万人が利用(H29)。山梨県人口は85.5万人。

エビデンスの論文はこちら。

論文によれば、50歳以上の約3,600人を読む人・読まない人に分けて調査したところ、読む人の寿命は23ヶ月長く、また彼らには性別、健康状態、財産、学歴などに関係がなかったとか。つまりこれは、単純に読書をする人はその周辺環境に関わらず、健康寿命を延ばすことができる可能性を示唆しているわけです。すごい!!

考察

出演者のマツコ・デラックスさんが声を大にして主張していましたが、本当にこれは画期的。これまで健康という文脈はどうしても体を動かす、食事を改善するという側面ばかりがフォーカスされてきた気がします。それに対して、今回AIが導出した答えは読書。ご意見番千葉大学・近藤克則教授(AIひろしの分析を担当された先生)によると、「ある地域で、どういう地域に要介護の人が少ないかを分析したところ、図書館が近くにある人は要介護リスクが低いというデータもある」のだとか。

物理的な部分だけでなく、読書を通じて「頭を鍛える」ことで日々の生活や行動が豊かなものになり、ひいてはそれが健康寿命を延ばすことにもつながっているのでしょう。

コメンテーターの方々も、次のような利点を述べられていました。

  • 「心が動くと体が動く」。本や雑誌を読むことは行動を起こすきっかけを与えてくれる。
  • 知的刺激を受ける、次に何を読もうか予定を考えることは活性化につながる。これはタブレットでも同じ。
  • 「本を読む」ことは「自ら面倒なことをしに行く」こと。この行為には活力や向上心がある。
  • 山梨は昭和20年代から学校司書を配置してきた。この制度が幼少からの読書習慣を根付かせたのではないか。
  • 初等教育をしっかり受けることは、認知症を減らす効果にもつながるという研究もある。
  • 地域の中心部に、夜遅くまでやっている図書館を1つ作ることで、日本全体の健康寿命促進の効果があるかもしれない。
  • 図書館や司書の配置は、医療に比べコストがかからない。

doksyo-tekの感想

うーむ。すごい。いいことづくめですね。これは実証実験としてどこかの地域で試してもらいたい。今も文科省を中心に読書推進の政策が作られていますが、他省庁も加わって、低コスト・高効率な健康寿命モデルを作ったらいいと思います。というか、この番組が放送されたのが昨年10月だから、もう今年度あたり具体的な施策として取り入れている自治体があるかもしれませんね。国や自治体の活動も合わせて調べてみようと思います!

補足

ちなみに、なんでこのタイミングでの投稿なのかと言いますと、たまたま時間ができ、そしてたまたま自宅HDDを整理していたらまだ見ていない本番組にめぐり合ったという、それだけの理由です。ただ、内容がとてもすばらしかったので、自分の理解も含めて書き記しておこうと思った次第です。久しぶりのブログで失礼いたしました!

補足2

併せてこんな本もオススメです。

 

ブログをHTTPS化しました

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お久しぶりです。

はてなブログHTTPS対応していると、Twitterで教えていただきました。教えていただいてからしばらく経っていたのですが、重い腰をあげて、やっと設定を変更しました。

参考にしたのはこちら。

happylife-tsubuyaki.hatenablog.com

さてさて、最近はTwitterばかりでブログの投稿が滞っています。Twitterは日々のニュースに対する感想、ブログは考えを記事としてまとめて書くという風に住み分けをしているつもりなので、これからはストックしてきた考えをブログに少しずつ書き記していこうと思います。

改めて、どうぞよろしくお願いいたします。

 

HMDを用いた読書スタイル

先日、以下の記事を読みました。

lifehacking.jp

記事はHMD(Head Mounted Display)を用いた読書アプリの紹介です。百聞は一見に如かず。まずはリンク先のムービーをご覧ください。特に、4分30秒くらいからがイメージがわかりやすいかと思います(下のはキャプチャなので、動画はリンク先でご確認ください)。

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図 ImmersionVR Reader

海辺の中空に書棚のようなウインドウが浮かんでおり、ポインタで書籍を選ぶと、これまた浮いた感じでテキストが読めるようになっています。

記事によると、まだまだ表示や操作のUIに課題が多そうです。が、これは新しい読書スタイルを感じさせる取り組みだと思います。

こうなると、やはり欲しくなるのはVR空間内で本をもっと便利に扱う方法です。たとえばImmersion VR Readerにあるような、面陳の本棚の形式ではなくて、本当に背表紙しかみえていない書斎のような空間をVRでつくることができたらばということを想像します。

なるほど、確かにそういう方向もありかと思いますが、書店に行くと、まず入口には面陳で話題の本や売れている本が並びますので、もう少し、面陳を軸とした表現方法を考えてみてもよいのかもしれません。

例えば、中国・天津の図書館のような佇まいに(ここは棚刺しですが)、書影がブワーっとあると、それだけで知的空間を漂っているような感じになり、これまでとまったく異なる本を選ぶ体験ができるかもしれません。

 また、仮想空間であるので、いったん書影表示UIができてしまえば、検索結果から特定のテーマや著者のタイトルを並べたり、読書前に帯情報や要約、書誌情報等を閲覧できるようになります。これは、これまで物理的な制約を伴っていた書斎に新しい在り方を提案するものであり、今後、仮想空間上での理想の書斎づくりに大きく寄与することになるのかもしれません。

思えば昔むかし「VRMLによるウォークスルー型書店/図書館」なんてのがあったけど、それに近いものが形を変えて実現されようとしているのかもしれません。


FUTUREBOOK CONFERENCE 2017

はじめに

イギリスの老舗・THE BOOKSELLERによるFUTUREBOOK CONFERENCE 2017。去年、このブログで取り上げようとしてすっかり忘れておりました。

2016年は「the BookTech Awards」でしたが、2017年は「BookTech Company of the Year 2017」となっていたようです。最終に残った6社、それぞれ面白いBook Techをお持ちなので、紹介してみようと思います。

2016年の記事はこちら。

doksyo-tek.hatenablog.com

紹介する6社のサマリ記事はこちら。

www.thebookseller.com

以下、doksyo-tekの意訳+感想です。間違いが含まれているかもしれませんので、ぜひリンク先の本家サイトも訪ねてみてください。

Authorfy

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子どもたちの読み書き能力を向上する教室を提供するサービス。プロの作家による創作に関するムービーを見て、その後でワークシート等、Authorfyが用意する活動を進めることで、読み書き能力が向上するよう設計されている。

このサービスは、識字率の向上のみならず、読者⇔作家のインタラクティブを通じて読書ファンを増やすという側面も兼ね備えている。

Time Traveler Tours

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歴史とポケモンGoマッシュアップしたようなサービス。サービス利用者はタイムトラベラーであり、彼らは歴史的な場所でスマホアプリを利用することで、歴史的な出来事に関するゲームやARを体験することができる。

このサービスは、電子書籍、オーディオブック、印刷物と共存する新しいタイプの参考書になりうる。

Sweek

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物語シェアサービス。自分で物語を書いて出版することも(売ることも)、誰かが書いた物語を読むことも(買うことも)、また、著者でもあり読者でもある参加者同士つながることもできる。

このサービスは、いわゆるソーシャル読書アプリだが、出版に関する全ての側面をモバイルだけで完結できるように設計されている。

Reading in Heels

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"intelligent, stylish modern women"向けのデジタルブックの詰め合わせサービス。月額制。文学、美容、ライフスタイル等に関連するデジタルブックが読めるとともに、レビューやコメントの共有、その他コンテンツを利用できる。

このサービスは、特定読者層をターゲットしているところがよい。詰め合わせるにしても、大枠の興味が同じで、かつある程度のボリュームがいる層を狙っている。鮮度の高い情報提供にも価値がありそう。

Bookship

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家族、友人、同僚等と自分の読書体験を共有できるソーシャル読書アプリ。特にインスタグラムやSnapchat等を使いこなす世代をターゲットにしており、気になるページのスクリーンショットを投稿したり、これから本を一緒に読もうと誘ったりする対話型インタフェースを備えている。

このサービスは、一言でまとめるならば、今風。読む行為は基本的に自分が本と向き合う内向的な行為だが、あえてコミュニケーション機能を設けることで、読書会的な要素を提供してくれる。

Last Seen Online

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没入型フィクションアプリ。行方不明の女の子とその家族に何が起こったのかを解明することが目的。7日間にわたって、テキスト・写真・ビデオメッセージを受け取り、それに基づいて真実を発見することを行う。

これは、読書というより、様々なメディアを総合的に使った体験型物語なのだと思う。こういうアプリ型コンテンツ、とても面白いけど、どうマネタイズするんだろう。

まとめ

 2016年のアワードは、データ連携するビジネスモデルと、書籍に付加価値を付けるビジネスモデルが主流でした。それに対して、2017年はもうずばり、ソーシャルリーディング。読むという個人的体験にコミュニケーション機能を加え、読書体験を共有するタイプのビジネスモデルが多く見られました。

この動き、日本ではあまり活発でない感じがします。ただ、もし「コミュニケーション」を「著者と読者をつなぐ仕組みとしてのソーシャルリーディング」と捉えれば、例えばDeNA/ドコモのエブリスタやヒナプロジェクトの小説家になろうなど、新人発掘・応援という文脈で広がりを見せており、また、これらはライツ販売というビジネスモデルが構築されつつあります。

いずれにせよ、データ連携、書籍に付加価値というベースに、ソーシャルというコミュニケーション要素が加わり、読書周辺の環境が整いつつあることが見てとれるのが、今年のアワードでした。

さてさて、来年はどう進化することやら。今から楽しみでなりません。

参考

併せてこんな本(と映画)も読んでおきたい!

コンテキストの時代―ウェアラブルがもたらす次の10年

コンテキストの時代―ウェアラブルがもたらす次の10年

 
Reading the Comments: Likers, Haters, and Manipulators at the Bottom of the Web (MIT Press)

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