読書的な何か。

読書と読書にまつわるテクノロジー、雑記など。

書評『ネット・バカ』(2)

邦訳『ネット・バカ』を読んで、書評と考えを以下の3点に絞って書き綴っています。今回は「視点(2)ウェブの影響」です。

  • 視点(1)深い読書
  • 視点(2)ウェブの影響
  • 視点(3)新しい読書

少し振り返りますと、前回は「深い読書」について述べました。深い読書とは、「沈黙→集中→注意の持続→切れ目ない読み取り」という読みのプロセスを通じて、人の意識を(言葉・思念・情動を伴う)「内なるフロー」に向けていくことでした。そして、その実現には、集中と沈黙が欠かせない要素でした。この深い読書に、ウェブはどう関わってくるのでしょうか。今回は、ウェブの影響という視点でまとめてみたいと思います。

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視点(2)ウェブの影響

ハイパーリンク

ウェブ機能のひとつにハイパーリンクがあります。リンクは、他のテキストへの言及、引用、脚注等を実現します。これらは紙の本にも備わる基本機能ですが、紙とウェブでは、その効果が異なるようです。つまり、紙が関連情報を指し示すのに対し、リンクは関連情報へのアクセスを格段に容易にします。加えて、リンク先へ行くように急き立てる効果があるかもしれないのです。これは誘導(ナビゲーション)としては有用ですが、読んでいる途中で他のページに移動するため、注意散漫状態を引き起こします。

人間の順応

しかしながら、ウェブが浸透するにつれ、人々は徐々にウェブのごちゃごちゃした混成状態に順応していきます。そして、紙とは異なるウェブならではの読み方がされつつあるのです。

読みの変容

従来の読みは、集中と沈黙がベースであるため、それが持続する限り、文書の長さはあまり重要ではありませんでした。ところが、ウェブにおいては、リンクが引き起こす注意散漫状態で文書に接するため、短く、端的なものが好まれるようです。タイラー・コーエンは、この点に関して「(情報に)アクセスすることが容易である場合、短く、感じが良く、断片的なものが好まれる傾向がある」と述べています。

そもそも、従来の読みは「文字を追う」というシンプルで線形な行為でした。それに対し、ウェブの読みは、リンクの挿入という機能拡張に伴い、文書間をあちこち飛び回りやすくなったことで、複雑で非線形な行為になっています。非線形な行為が注意散漫状態を引き起こし、その環境下では脳が「注意を持続するモード」に入ることができず、結果として、長い文よりも短く、端的な情報が受け入れられているのかもしれません。

視点(2)のまとめ

ウェブのリンク機能は文書間を容易に行き来できるという利点と、行き来するという行為がもたらす注意散漫状態という欠点を併せ持ったものです。そして、これまでのシンプルで線形な読みに対し、複雑で非線形な読みが求められます。人々はこのような読みに順応しつつ、より短く、端的な情報を求め始めているのです。

現在のウェブにはリンク以外にも多様な機能が盛り込まれています。リンクだけでもこれだけ論点があるとすれば、他の機能も検証したほうが良いのかもしれません。

次の視点は、ウェブの影響下で生まれる、「新しい読書」についてです。が、このお話はまた次回!

参考文献

参考

▼ニコラス・G・カー,篠儀直子著「ネット・バカ インターネットがわたしたちの脳にしていること」(青土社)
4791765559