紙とディスプレイ -表示媒体の違いにおける読みやすさ(5)
はじめに
これまでの経緯は、以下の記事になります。
今回も下記論文のDigital reading(デジタル読書)に関する研究トピックスを読んでいきます。今回は研究トピックスその3「Preference for reading medium」(読書媒体の選択)です。
Preference for reading medium(読書媒体の選択)
Ziming Liu、Lili Luo(San Jose State University)
- 読者が好みの読書媒体を選ぶということは、とても多様で、文脈によるものである
Barry W. Cull(University of New Brunswick)
- デジタルリソースが爆発的に増加しているにもかかわらず、理想的な1つのフォーマットが全てのニーズを満たす状況になっていないことに注意すべきだ
- 詳細な読書(深い読書)の源として、紙の読書への継続的な欲求があることに気づく必要がある
Lisa W. Foderaro(The New York Times)
- 電子教科書は検索性、内臓辞書、相互参照、簡単なコピー&ペーストのような、紙の教科書では利用できない多くの特徴や機能を有しているにもかかわらず、受け入れられていない
- The National Association of College Storesによれば、デジタル版は最近の教科書販売構成の3%に過ぎない
- New York Times紙のレポートによれば、学生は伝統的な紙の教科書に"しがみついている"ことを明らかにしている
Foderato, L. "In a digital age, students still cling to paper textbook", New York Times(2010-10-19).
Heather MacFadyen(Dalhousie University Libraries)
- 電子教科書の最も重要な課題は、読書とナビゲーションである
- 学生は記憶と理解のため、テキストをハイライトし、紙の教科書の余白に書き込みをする。デバイスは改善されており、スキミングサポートができるが、読書とメモの絡み合ったサポートは十分ではない
簡単な所感
前々回、大量の情報から欲しい情報を得るのはデジタル向きで、あれこれ思考して情報を吟味するのは紙向きかもしれないと述べました。
この仮説が正しいとすると、デジタルを前提とした読書デバイスに求められる機能は、検索やリンク、コピペのしやすさのような情報取得の補助機能ではないでしょう。むしろ、読んでいる最中に頭の中に立ち上る、様々な気づき、認識、同意、反論、そのような「考え」を、シームレスに文章と対比させてアウトプットしていく、MacFadyenの言うところの絡み合ったサポートが重要なのだと思います。
このサポートは、一部では「アノテーション(注釈付け)」として試みられています。ただ、インタフェースの問題か、文字を追うという行為を妨げずに注釈をつけることは困難な印象を受けます。また、単に注釈付けが完璧になされれば内容の理解が進む、というわけでもなさそうです。
このあたり、まだ明確な意見は持ち合わせていないのですが、課題の一つとして捉えておきたいと思います。
といったところで、次回は研究トピックスその4「Multi-tasking and learning」を取り上げたいと思います。