紙とディスプレイ -表示媒体の違いにおける読みやすさ(4)
はじめに
前回の続きです。今回も下記論文のDigital reading(デジタル読書)に関する研究トピックスを読んでいきます。今回は研究トピックスその2「Print vs digital」です。
Print vs digital(紙 vs デジタル)
最近の研究で、デジタル読書と紙の読書は様々な面で大きく異なることがわかってきています。
Abigail J. Sellen(Hewlett-Packard Laboratories)、Richard H. R. Harper(Microsoft Research)
- コンピュータシステムはドキュメントの保存・配信・検索のような多くの側面で優れている
- 一方、紙は編集・企画・協業のような一定のレベルで注意を持続させるタスクにおいて有用である
Sellen, A., & Harper, R.: "The myth of the paperless office", Cambridge, MA: MIT Press, 2002
Ziming Liu(San Jose State University)
- 紙環境において、読書中に書き込みをしたり下線を引くことは一般的な行為である
- しかし、デジタル読書環境においては、それらはまだ技術的解決がなされていない
Thierry Morineau(University of Southern Brittany)、Paul van den Broek(Leiden University)、Jessica E. Moyer(University of Minesota)
- 多くの研究で、デジタル読書は紙と比べて理解しにくいことが示されている
Sigal Eden(Bar-Ilan University)、Yoram Eshet-Alkalai(The Open University of Israel)
- 学生に対して、紙とデジタルで書かれた短い文章を積極的に読んでもらった結果、両者で有意差はみられなかった。学生のような若い読者は日々デジタル読書が習慣化しているためと考えられる
- 今後は長い文章についても同様の調査が必要
Ziming Liu(San Jose State University)、Xiaobin Huang(Zhongshan University)
- デジタル読書と紙の読書の選択と設定は文脈である
- 短い文書(eメール)を読む時、カジュアルな読書(ニュースやエンタメ)をする時、退屈な時、人々はオンラインのデジタル読書を好む
- 長い文章(教科書)を読む時、まじめな深い読書をする時、理解が難しい何かを読む時、学術論文を読む時、メモをとる必要がある時、人々は紙の読書を好む
- 紙環境において、読書中のメモは一般的な習慣だが、ボーンデジタルで育った子ども達には必要のない習慣である可能性がある
- 今後、デジタル環境での読書変化について継続的なモニタリングが求められている
Nielsen(Nielsen Norman Group)
- 学生は携帯電話等の小さな画面で電子教科書等の長い文章を読むことができるが、紙の教科書と同じくらい長く集中して読むことができるというわけではない
- 2010年に行われたヤコブ・ニールセンの調査によれば、紙と比較して、iPad読者で6.2%、Kindle読者で10.7%、ゆっくりと読書をしている
- 電子書籍端末やモバイル読書の影響については今後の研究課題である。
簡単な所感
このセクションではいろいろなことが述べられていたので、簡単な表にまとめてみました。
要件 | デジタル | 紙 | |
---|---|---|---|
保存 | ○ | ||
配信 | ○ | ||
検索 | ○ | ||
編集 | ○ | ||
企画 | ○ | ||
協業 | ○ | ||
下線を引く | ○ | ||
理解のしやすさ | 多くの研究では | ○ | |
統計的差異 | 同じ | 同じ | |
短文 | 理解 | 同じ | 同じ |
読む(カジュアルな読書、メール等) | ○ | ||
長文 | 読む(まじめな読書、論文等) | ○ | |
モバイルと紙 | ○ | ||
読書速度 | 遅い | 早い |
こうしてみると、評価項目によって紙とデジタルには一長一短があることがわかります。
保存・配信・検索といったシステム化しやすい面はデジタルが優位、編集・企画・協業といった人間のノウハウを使う面では紙が優位となっています。
また下線を引くというインタラクションについては、慣れもあるかと思いますがまだ紙のほうが優位なようです。
理解のしやすさという点は多くの研究で紙の優位性を挙げているものの、統計的には差異がないとする報告もあり、実験によって結果が割れています。
文章の長さも大きな研究テーマのようですが、読書対象の違いや画面サイズの違い等でその結果が割れています。
上述のうち、理解のしやすさ、つまり理解したかどうかという行為は人間の内面に関することであり、外部から定量的に測るのは非常に難しいと思います。理解したかどうかを明確にするより、まずはどのような条件の時、どのようなタイプの文書を読むのに向いているのか、を明確にすることが先かと思いました。
なお、今のところ、読みやすさの定義があいまいなこともあり、読みやすさと理解のしやすさの関係性については不明です。ありそうではありますが。
といったところで、次回は研究トピックスその3「Preference for reading medium」を取り上げたいと思います。