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紙とディスプレイ -表示媒体の違いにおける読みやすさ(2)

前回(4ヶ月前!)「ディスプレイ表示より紙のほうが理解度が高いという実験結果」について、こんなことを書きました。

  • これまで「読みやすさ」を文章の難易度という観点で見てきた(読みやすさの評価指標(1)(2)(3)
  • 実験に対するスラドの意見を整理してみると、表示媒体の違いも検討が必要
  • 特に読書時に内容に注力できる要素/注意をそらす要素について着目
  • そこで、表示媒体の違いが読みやすさに与える影響について、認知科学のアプローチをサーベイする

ということで、今回はいくつかのサーベイとそれに対する考察を少し書きたいと思います。

どうも1990年代以降、紙に書かれた文章のほうがディスプレイに表示される文章よりも人間の理解度が高い、とする研究結果が多く散見されるようです。

代表的なもので、ノルウェー・スタヴァンゲル大学Anne Mangenらの研究があります。日本でも記事になったので記憶されている方も多いのではないでしょうか。

gigazine.net

www.lifehacker.jp

IGEL2014で発表されたMystery story reading in pocket print book and on Kindle: possible impact on chronological events memoryという報告は、紙グループとKindle DXグループにそれぞれミステリー小説を読ませたところ、Kindle DXグループは作中の出来事を時系列に並べ替える問題の正解率が明確に低かった、というものでした。

www.academia.edu

また、MangenはInternational Journal of Educational Research誌にReading linear texts on paper versus computer screen: Effects on reading comprehensionという論文を書いています。そこでは、同じテキストを紙とスクリーン上のpdfで読ませ、読解テストを行って分析(重回帰)したところ、紙のほうが有意に優れていた、と報告しています。

www.academia.edu

他にも、スウェーデン・ヨーテボリ大学Erik WastlundComputers in Human Behaviorで発表したThe effect of page layout on mental workload: A dual-task experimentという論文によれば、同じ種類のテストであっても、片方は設問毎にポップアップウィンドウで表示し、もう片方は連続テキスト形式で表示したところ、前者はウィンドウを閉じるという動作、後者はテキストを読む位置までスクロールする動作が影響し、認知に必要なワーキングメモリを設問を解くこと以外に多く消費している、としています。

Mangenの研究は、出来事の並び替えと読解は紙のほうがすぐれているとし、Wastlundの研究は読解にインタラクションは邪魔(ワーキングメモリ消費)、としています。もちろん、論文の中ではこんなに直球な言い方はしていません。もっと丁寧に考察をしており、「前述のような可能性があるので、フクザツな事象をもっと細かく要素に分解して調べていく必要がある」と述べています。

しかしながら、このような方向性が示されているということは、紙に印字される本の延長(置き換え)にディスプレイで表示される本があるわけではなく、これらは別物である、と捉えてもよいのだと思います。つまり、「読書時における内容に注力できる要素/注意をそらす要素は紙とディスプレイでその特性が異なるため、それぞれのメディアに適した読みやすさ要素が存在する」。

このあたりの仮説に対する考察も含め、もう少しサーベイを続けてみたいと思います。今度はもっとじっくりと論文を読み込んでみようかしら。あ、あと日本の動向も併せて確認していきたいと思います。