読書的な何か。

読書と読書にまつわるテクノロジー、雑記など。

書評『読書力』

「読書の本質」を説いた一冊です。

著者は『声に出して読みたい日本語』『三色ボールペンで読む日本語』などでも有名な齋藤孝先生です。ここでも以前、子ども向けの読書術に関する本を紹介していますが、それより格段に熱い先生の思いが詰まった本でした。

概要

本は4部構成になっており、序で読書の本質、読書力を理解するためのポイントが述べられています。1~3部では、それぞれ(1)自己形成、(2)上達プロセス、(3)コミュニケーション力の観点で具体的なメソッドが述べられています。また、巻末には先生おすすめのブックリストが付いています。

読書力とは

齋藤先生は、読書という行為にどのような本質を見出しているのでしょうか?

ここでは「読書=人間の思考活動の基礎である」と定義付けています。この定義を説明するキーコンセ プトが「読書力」です。

読書力を理解するためのポイントは以下の4点です。

1)「読書力がある」の基準

内容がしっかりしており、冊数をこなすことで読書力は養われます。ここで言う内容・冊数は明示的に示されています。つまり、内容は「精神の緊張を伴う」読書ができること。冊数は「文庫百冊・新書五十冊」を読むことです。

2)「読書力」の評価指標

読書力が養われているかを確認する基準も明確です。それは「要約できる」こと。半分しか読んでいなくても、要旨を外さずに要約ができていれば、それは読書力が養われていることになります。

要約の力は「読書力検定」にも使えるのという提案も面白い。一定時間内に決められた分量の本を読み、内容が把握できるか確認する検定です。確認事項として、下線を引いた箇所の確認や予め用意した要旨を外していないか、などが挙げられています。

3)「読書力」を身につける上での課題

読書力を身につける上での課題についても述べています。課題は一言でいうならば「読書内容をアップグレードする際、溝をどう埋めるか」ということです。

読書を続けていく上で対象を「精神の緊張を伴う」ものにアップグレードしていくわけですが、ジャンプが必要な時期があり、その差分をどう補完すべきかという点を指摘しています。具体的には、以下の2点において対応が必要になるとしています。

  1. 絵本から大人の本へ(子どもから大人への溝)
  2. 推理小説やSF本から栄養のある心地よい精神の緊張が得られる本へ(エンターテインメントの溝)
4)課題の解決策

上記課題を解決するため、以下3点の提案をしています。

  1. 総ルビ文化の復活:漢字が読めなくても、読み進めることができる
  2. 世界文学の需要:文化の多様性を受容できる
  3. 多量の読書:幅広い読書を通じた、価値観や倫理観の形成ができる

以上は序の要約(のつもり)になります。

上記ポイントを外さずに、具体的にどのような方法論を適用して読書力を自分のモノにするのか。読書を通じて、どのように自己形成、コミュニケーション力の構築を行うのか。残りの3部でたっぷりと示されています。ぜひ手にして実際読まれてみることをおススメします。

所感

この本が10年以上前に出版されていて、そして読んでいなかったことを後悔しました。とても示唆に富む、おもしろい本でした。特に1~3部で示される方法論は具体的で、一般人でも実践しやすい(ように書いてある)ものが多いと思いました。

そして、これらのメソッドを工学的に捉えることで、より読書力を高める/深めるような技術も創り出せるのではないか。そんな希望を感じさせてくれる一冊でした。

最後に、気に入ったフレーズをご紹介しておきたいなと思います。

(52ページ)
矛盾しあう複雑なものを、心の中に共存させること。読書で培われるのは、この複雑さの共存だ。自己が一枚岩ならば壊れやすい。しかし、複雑さを共存させながら、徐々にらせん状にレベルアップしていく。それは強靭な自己となる。

(111ページ)

一度読書が技として身につくと、そう簡単には落ちない。外から見ると、「さすが読書部出身(そうは言わないが)」というレベルにもなる。

(160ページ)

ポイントを押さえる力と文脈からわざと外れる力は矛盾しない。むしろいつでも論理の脈絡に戻ることのできる認識力があるほど、お互いに恐れずに話を飛躍することをできる。

齋藤 孝著「読書力 (岩波新書)」(岩波書店)
4004308011

オマケ

巻末ブックリストは、以下にまとめられています。

matome.naver.jp

また、本文では巻末リストにはない栄養になりそうな、精神の緊張を得られる本が多数紹介されています。全部紹介したいところですが、ここでは単純に自分が読んでみたい5冊を選んでご紹介します。

▼アインシュタイン,インフェルト,石原 純著「物理学はいかに創られたか(上) (岩波新書)」(岩波書店)
4004000149

▼アインシュタイン,インフェルト,石原 純著「物理学はいかに創られたか(下) (岩波新書)」(岩波書店)
4004000157

▼鈴木 大拙,北川 桃雄著「禅と日本文化 (岩波新書)」(岩波書店)
4004000203

▼島崎 敏樹著「感情の世界 (岩波新書 青版 97)」(岩波書店)
4004120659

▼九鬼 周造著「「いき」の構造 他二篇 (岩波文庫)」(岩波書店)
4003314611

▼小林 秀雄,岡 潔著「人間の建設 (新潮文庫)」(新潮社)
410100708X