速読の科学(2)
はじめに
前回(ってもう3ヵ月以上前…)、速読に興味を持ち、速読の論文とちまたの速読本を比較することを考えました。
以下はきっかけとなった記事です。
そして、読んでみようと思った論文。
さらには、比較としての速読本です。
どこをどう比較していくかを考えるのも楽しいのですが、まずはそれぞれの文献を読み進めていきたいと思います。ということで、ここから数回にわたり、論文を読んでいきます。
論文について
タイトル
タイトルは「So Much to Read, So Little Time: How Do We Read, and Can Speed Reading Help?」。「少しの時間でたくさん読むために、どのように読めばスピードアップできるか?」といった感じでしょうか。
キーワード
- 読書
- 速読
- 眼球運動
- 高速逐次呈示法(Rapid serial visual presentation)
- 言語認識
- 理解
並べてみると、読書時における眼の動き、その際の言語認識と理解、そして謎の手法(高速逐次呈示法、はググりました。かつ、前回は「経時」だと思っていた言葉は「逐次」かも)が関係している論文なのだとわかります。
論文構成
次に、論文構成を見てみます。目次がなかったので、見出しを抜き出してみました。章番号は勝手につけています。
- 1章 イントロダクション
- 2章 読書、スキミング、速読
- 3章 読書プロセス
- 3‐1 書字システム
- 3‐2 視覚処理と眼球運動
- 3‐3 言語認識
- 3‐4 理解
- 3‐5 自然読解プロセスの結論
- 4章 高速逐次呈示法
- 4‐1 高速逐次呈示法における短文の読み
- 4‐2 高速逐次呈示法における読み
- 5章 読書スピードと理解の維持
- 5‐1 速読コース
- 5‐2 スキミング
- 5‐3 速読技術
- 5‐4 読解練習
- 6章 結論
1、2章で論文の概要、3章で読書をプロセスとして見た時の各種切り口、4章で高速逐次提示法の説明、5章で速読の方法、6章でまとめと今後の課題が述べられています。もう、ちょっとした本みたいですね。
摘要
では、次はいよいよアブストラクトを読んでみます。なお、全訳はしません。あくまでかいつまんで意訳しているつもりです。従いまして、内容について齟齬が生じる可能性があります。正しくは、リンク先の論文をお読みになってください。
- 速読は、「読書ダイナミクストレーニングプログラム」(Reading Dynamics training program、1959年、Evelyn Wood)が起源。最近は速読アプリも人気
- 研究によれば、速度と精度はトレードオフ
- テキストの完全な理解を求めなければ、スキミングである程度読むことができる
- 理解したまま読書速度を上げるには、たくさん言葉を知っている必要がある
「速度と精度はトレードオフと言われているけど、言葉をたくさん学べば、理解を保ったままスキミング(飛ばし読み)もできる」ということのようです。
1章 イントロダクション
次は1章のイントロダクションです。
- 世界速読チャンピオンの読書スピードは4200WPM(1分あたり4200語)。ハリーポッターの本を47分で読むくらいのスピード
- 通常の成人だと、200~400WPM
- 「一目で多くの視覚情報を取得し、かつ脳内で読み上げまでできれば」読書スピードがあがる
- その手法は、RSVP(Rapid Serial Visual Presentation、高速逐次呈示法、デジタル上で動的にテキストを提示する手法)である
この論文の骨子も次のようにまとめられています。
- 通常の読みに関する心理学研究を概観
- 比較として、近年人気が出てきたRSVP速読技術を概観
- 1,2を踏まえ、読書速度を向上させる方法について検討
この論文の結論は、以下の通りです。
- 読書スピードと理解の両方を満たす、特徴的で簡単な学習行動はない
- ただし、効果的・実践的なスキミング手法はある
論文なので、冒頭に骨子と結論が述べられています。繰り返しになりますが、要するに読書スピードと理解の両方を満たす、特徴的で簡単な学習行動はないが、効果的・実践的なスキミング手法はあるということです。
この後、本論では、どうしてこうなのか、その内容が解き明かされていきます。
終わりに
前回「速読は不可能である」というニュースを知り、現在の速読の姿を、理論と応用という2つの側面から見ていきたいと構想しました。
今回からしばらく、まずはサーベイ論文を読んでいくことで理論的な側面に迫ってみようと思っています。次回以降、今回見てきた内容を少しずつブレイクダウンしていきます。ということで、今回はこのへんで!