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読書的な何か。

読書と読書にまつわるテクノロジー、雑記など。

書評『鈴木さんにも分かるネットの未来』

はじめに

本書はドワンゴ創業者でカドカワ社長の川上量生(かわかみのぶお)氏がネットの未来について論じた本です。

「鈴木さんにも分かる」とは、川上氏が弟子入りしていたスタジオジブリ鈴木敏夫氏に説明する(=ネットに詳しくない人に説明する)というスタンスを取っていることに由来します。

目次を眺めますと、ネット社会やネット世論から始まり、コンテンツ、プラットフォーム、電子出版、テレビ、集合知ビットコイン等、多岐に渡ってネットトレンドが網羅されています。

この中で、やはりdoksyo-tekは電子書籍の未来」が気になりました。そこで、今回は『鈴木さんにも分かるネットの未来』の「電子書籍の未来」について書評してみたいと思います(従いまして、本書全体の書評にはなっていません)。

本の未来

電子書籍というと、よく紙の本 VS デジタル本という構図で語られることが多いのですが、冒頭、川上氏はズバリ紙に未来はないと切り捨てています。

p211

結論から先にいうと、紙の本が電子書籍に置き換えられるのは避けられない未来だというのがぼくの見方です。

バイスの携帯性、省スペース性、テキスト化による検索性、紙代・印刷代・物流代の削減によるコスト性。そのすべてにおいて、紙に勝っているため、というのが理由です。

こういう周辺が整いつつあることはわかります。では、肝心の本そのものはどうでしょうか。川上氏は未来の電子書籍は以下のように進化していくと見立てています。

p215

  1. テキストや画像だけでなく、音声や動画などのいろいろなデータを取り込んでマルチメディアの電子パッケージ媒体になっていく
  2. 自動的に内容が更新、追加されるようになる
  3. 検索、引用、メモ、読書記録の自動保存など、読書体験の進化
  4. 他人と読書体験を共有できるようになる(ソーシャルリーディング)
  5. 本の非局在化。自分の持っている本は、ネットワークにつながっていれば、どこでもさまざまなデバイスで読めるようになる

さほど新しくない分、十分実現できる、あるいは既に実現されている技術で構成されています。例えば、1。いわゆるマルチメディアは、EPUBHTML5で構成されていることや、Kindle in Motionのような取り組みを通じてわかるところです。他にも、内容の追加・更新、メモや下線の共有Kindleその他で実現されていますし、ソーシャルリーディングサービス(本のStand、ブクログ読書メーターなど)、いつでもどこでもデバイスに依存せずに読める環境等も整いつつあります。

これからの電子書籍に求められるもの

現在の電子書籍に足りないもの、そしてこれから求められてるものについて、彼はこのように語っています。

足りないもの

p219

電子書籍の大きな欠点は、読んでいるとき以外は、どこにあるか目に見えないということです。

求められるもの

p227-228

現在のウェブでの情報の爆発にともなう内容の低レベル化を考えると、無料ウェブで広がっているハイパーリンク網とは別に、有料の電子書籍間でのハイパーリンク網が、インターネットの新たな知のネットワークを構築する可能性があるんじゃないかと期待しているのです。ウェブの知のネットワークを電子書籍が担うようになれば、むしろ電子書籍はインターネットによって最も成功したコンテンツの地位を得られるのではないでしょうか。

「足りないもの」は同感です。

本を買ったものの読まずに積み上げておく行為を積読と呼びますが、積読は物理的に目の前に本が積みあがっているため、読んでいない本が圧迫感と共にそこに存在しています。

それに対し、電子書籍は、アプリケーション内部に本棚はあるものの、そのアプリを起動させなければ、一切目に触れることはありません。読みかけの本、または読んでいない本がありますよ、といったプッシュ通知もありません(と書いたけど、プッシュくらいならサービスでありそうだな)。

このあたり、読者に読まなきゃ!と思い出させつつ、かと言ってしつこくないように読書を促す、電子積読を解消する技術は今後の電子書籍発展に大いに役立つ技術だと思われます。

一方、「求められるもの」はどうでしょうか。有料・無料で差別化できる知識ネットワークが形成される世界。それは一つの解なのかもしれませんが、doksyo-tekはイマイチだと思っています。

有料であるとは、プロが編集しているため、内容の事実確認や言葉使いが担保されていることに対する対価なのだと思っています。であるならば、wikipediaに代表されるようなネットワーク上での相互編集・相互管理が昇華すれば、それはプロ編集者と同等の品質を保てるのではないかと思うのです(もちろんそこに編集者として参画するユーザへの対価は必要かもしれませんが)。

つまり、有料・無料による差別化ではなく、どれくらいたくさんのユーザの目でチェックされたかによる差別化です。「有料の電子書籍間でのハイパーリンク網」が価値のあるネットワークなのではなく、「多くのユーザに評価された電子書籍間でのハイパーリンク網」に価値があるのではないかと思うのです。

所感

今回は、カドカワ社長の川上氏によるネット論、とりわけ電子書籍論についてまとめました。紙が電子に置き換わりつつある状況の中で、堅実に機能強化をする一方で、電子積読の解消や、知識ネットワークの形成等、来るべき未来を示唆する、いい本でした。

オマケ

ネットを語るなら、とりあえずこの本も読んでおこう、と思うものを挙げてみます。

〈インターネット〉の次に来るもの 未来を決める12の法則

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インターネット (岩波新書)

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インターネット新世代 (岩波新書)

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IPv6―インターネット新世代

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  • 作者: 並木淳治,電子情報通信学会,電子通信学会=
  • 出版社/メーカー: 電子情報通信学会
  • 発売日: 2001/07
  • メディア: 単行本
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