読者です 読者をやめる 読者になる 読者になる

読書的な何か。

読書と読書にまつわるテクノロジー、雑記など。

「読んで理解する」とは何か(2)

はじめに

前回、読解方略に関してサーベイしている論文の、定義・モデル・効果等を簡単にまとめました。

犬塚美輪, "読解方略の指導", 教育心理学年報, Vol.52, p.162-172(2013).

doksyo-tekは、読解方略とは、人が本を読むという行為を通じて、どうやって本に書かれている内容を獲得するのか、その認知プロセスを明らかにし、より有効な獲得手段を見いだす研究領域だと理解しています。

さて、今回はサーベイ論文のまとめ第2弾です。読解方略の手法、その指導法や課題を中心にまとめて、「読んで理解する」とは何か、について考察を加えたいと思います。

読解方略の手法

通常の内容教授に比べ、読解方略指導を行うと、指導者は学習者に対し、(1)教示する、(2)理解の手助けをする、(3)方略の効果を伝える、といった手段を講じます。そうすることで、学習者は、別のシーンでも応用可能な「読解の認知プロセス」を得ていくのだそうです。

この認知プロセスを獲得すると、通常の内容教授型の学びと比較し、読解成績が高いという定量的な結果が示されています。

以上の前提を踏まえて、2つの具体的な読解方略指導プログラムが紹介されています。

プログラム(1)自己調整学習

何やら難しそうなプログラム名が付いていますが、筆者の解説を読むと、いたって明瞭で、(1)読者の現状分析をし、(2)目標と手続きを定め、(3)実際に読書し、(4)効果検証を行いつつ読書の練習をする、というものです。

目標設定は、たとえば読解前・読解中・読解後の3フェーズに分けて設定し、認知プロセスのみならず、読解の環境や情動の状況等も含めて捉えることが特徴だそうです。

この手法は、読解に対して、何回方略(内容獲得の手段)を適用したか、といった定量的な指標でモニタリングされることが多いそうです。ただ、熟達した読者にとっては、回数よりも、適切なタイミングでの方略適用のほうが重要だったりするそうで、そのチューニングが検討課題となっています。

プログラム(2)相互教授法

こちらは、学習者が自ら関わる読解方略指導プログラムだそうです。まず、最初に教師が読解方略手法として、①要約、②質問作り、③明瞭化、④予測、の各手法を示します。次に、学習者が①~④を用いて読み進めます。この際、学習者は①~④をどう使い分けるか学んでいきます。このような手法を用いた介入研究では、読解が促進されるという報告があるそうです。

このようなプログラムはいくつか提案されているそうですが、National Reading Panelでは、有効な7つの方略指導が提示されています(一部意訳しています)。

f:id:doksyo-tek:20170203234957p:plain
  • 理解モニタリング(自分の理解度を知るにはどうすべきかを学ぶこと)
  • 協同学習(他者と一緒に読解方略を実践すること)
  • 図的表現の活用(理解の手助けとして、図を用いること)
  • 質問への応答(教師の質問に答えて、かつフィードバックを受けること)
  • 質問の生成(自分自身に質問すること)
  • 文章構造(文章の構造を考えて、内容を記憶すること)
  • 要約の作成(文章をまとめ、汎化すること)

Dole, J. A., Brown, K. J., & Trathen, W. (1996). The effects of strategy instruction on the comprehension performance of at-risk students. Reading Research Quarterly, 31, 62-88.

Cantrell, S. C., Almasi, J. F., Carter, J. C., Rintamaa, M., & Madden, A. (2010). The impact of a strategy-based intervention on the comprehension and strategy use of struggling adolescent readers. Journal of Educational Psychology, 102, 257-280.

Zimmerman, B. J., Bonner, S., & Kovach, R. (1996). Developing self-regulated learners : Beyond achievement to self-efficacy. American Washington, DC : Psychological Association.

Palincsar, A. S., & Brown, A. L. (1984). Reciprocal teaching of comprehension-fostering and comprehension-monitoring activities. Cognition and Instruction, 1, 117-175.

National Reading Panel (2000). Teaching children to read : An evidence-based assessment of the scientific research literature on reading and its implications for reading instruction. Bethesda, MD : National Institute of Child Health and Human Development.

読解方略の課題

以下、論文で述べられていた読解方略の課題です。

  • 教育の現場では、読み方が限定的(例えば、要点の把握は多めだが、質問生成は少ない、等)
  • 文章理解の必要性が明示される読解方略指導が少ない(明示されたほうが効果が高い)
  • 読解方略そのものの研究は多いが、読解方略の指導に関する研究は少ない
  • 体系的な効果測定を含む実践研究が少ない
  • 電子媒体での「書き込み」が紙媒体での「書き込み」と同等の効果があるかどうか不明
  • ハイパーテキスト(いわゆるリンク)が読み手の理解に与える影響が不明
  • 中等教育レベルでない、より専門的な文章での方略の検討(複数テキストの理解、批判的な読み、等)

藤井ゆき・犬塚美輪 (2008).  説明文読解方略指導に関する教員の意識調査―年齢・経験による差異に着目した検討― 教心50, 286.

犬塚美輪 (2008). 中学・高校期における説明文読解方略の発達と指導 博士論文, 東京大学(未公刊)

野崎浩成・吉橋彩奈・梅田恭子・江島徹郎 (2005). テキストへの自由な書き込み行為が文章理解に及ぼす影響 日本教育工学会論文誌, 29, 49-52.

Miall, D.S. & Dobson, T. (2001). Reading Hypertext and the Experience of Literature. Journal of Digital Information, 2.

小林敬一 (2010). 複数テキストの批判的統合 教育心理学研究, 58, 503-516.小林(2010)

所感

前回、今回と2回にわたり「読んで理解する」ということについて、読解方略(およびその指導)という観点から眺めてみました。

そこでは「読んで理解する」ことを明らかにするために、読書の認知プロセスのモデル化と、その効果的な適用手法の研究が行われていました。

特に、後者(モデルの効果的な適用手法は、読書効果と呼んでもいいのかも)が着目されつつあること、7つの読解方略指導など、長期間にわたって効果検証が必要な研究エリアがあること等、目からウロコな感じでした。

読解のように、人間の内面が関わる部分を工学的に捉えるのはかなり難しい面があると思います。ただ、今回の論文で学んだとおり、定量的・合理的・汎用的な読解手法をモデルに落とし込み、それを対象者に適用させる運用プロセスも検討することで、様々な人にチューニングできる「読解の仕組み」を提供することができるのかもしれません。まぁ、先見知識とか、前提条件パラメータが複雑すぎて、そんなに簡単じゃないだろうけど。。