読書的な何か。

読書と読書にまつわるテクノロジー、雑記など。

写経(室生犀星の詩)

NDLのデジタルコレクション、充実してるんですね。ネット利用可能な図書だけで、35万冊を超えている! それに出版当時のままで読める(古い本は眺めるに近い)のっていいですね。

つらつらと眺めていて見つけたもの。「ふるさとは遠きにありて思ふもの」でおなじみ、室生犀星の詩です。様々な顔を見せる読書に関する、2編。写経したくなって、しちゃいました。

国立国会図書館デジタルコレクション - 第二愛の詩集(54コマ目)

『本』

本をよむならいまだ
新しい頁をきりはなつとき
紙の花粉は匂ひよく立つ
そとの賑やかな新緑まで
ペエジにとぢこめられてゐるやうだ
本は美しい信愛をもって私を囲んでゐる

 

国立国会図書館デジタルコレクション - 愛の詩集 : 室生犀星第一詩集(80コマ目)

『燭の下に人あり、本を読めり』

本を読んでゐると又雨が降り出した
毎晩のやうに重い雨戸が
閉した窓を叩いてゐる
濡れてしめつたそととは反対に
僕の室では一本の蝋燭がともれ
立派な美しい垂れとしほとを見せたカーテン
を下ろし

カーテンの裾のはうに卓があり
僕は感涙しながら本をよんでゐる
この恐ろしい物語りの中に
世にもやさしい一人の女性がゐて
人をあやめた不幸な男のために
声たかくヨハネ伝をよんで聞かしてゐる
頭を垂れた男の魂と
不遇な彼女の魂とはつれ立つて
今平和なすすりなきをしてゐる
ここまで読んで僕はふいと耳を立てた

ああ とぎれとぎれな雨のふる中で
だいぶ虫の啼く声が減つたやうだ
おとろへはてたあの声
毎夜のごとくかれらの美しい声により
また慰さめられて本を読み
そしてゐる間にもう肌さむい頃になつた
誰人とも会はず
清明な孤独に住み込んで
おお もう秋おそい頃になつたのであつた
自分は再た窓をとざして

しづかな雨をきいて
悲しい書物のペエジを剪りはじめた