読書的な何か。

読書と読書にまつわるテクノロジー、雑記など。

「読んで理解する」とは何か(1)

はじめに

読書とは何か? 辞書によれば「本を読むこと」です。

では、読むとは? 同様に辞書によれば、8つほどの意味があるようですが、読書の文脈では、②の「文字・文章などの表す意味を理解する」かと思います。

では、理解するとは? やはり辞書によれば、「わかること、納得すること、のみこむこと」。人によって違いはあるのでしょうが、心理学的には読み手の認知プロセスのことを指すようです。

読んで理解するための認知プロセス、丁寧に言うと「読解時に読み手が行う手続き及び思考で、理解プロセスに影響を与える任意の認知プロセス」のことを、読解方略と呼ぶそうです。

今回は、この読解方略について、上記定義を示したサマリー論文があったので、勉強もかねてまとめてみます。

犬塚美輪, "読解方略の指導", 教育心理学年報, Vol.52, p.162-172(2013).

以下、doksyo-tekの理解の下でまとめていますので、解釈が間違えているかもしれません。あくまでメモとしてお考えください!

この論文が対象とする文書

日本語で書かれたもの。物語文ではなく、説明文(概念やものごとを説明する文)や、論説文(特定の事柄についての意見が書かれた文)であること。

読解方略の定義

読解とは、読んで理解すること。方略とは、理解に影響を及ぼす手続きのこと。著者の言葉で言えば、読解方略とは「読解時に読み手が行う手続き及び思考で、理解プロセスに影響を与える任意の認知プロセス」である。

Weinstein, C. E., & Mayer, R. E. (1986). The teaching of learning strategies. In M. C. Wittrock (Ed.), Handbook of Research on Teaching (3rd ed.) (pp.315-327). New York, Macmillan.

Alexander, P. A., & Jetton, T. L. (2000). Learning from text : A multidimensional and developmental perspective. In M. L. Kamil, P. B. Mosenthal, P. D. Pearson, and R. Barr, (Eds.) Handbook of Reading Research : Volume 3 (pp.285-310). Mahwah, NJ : Lawrence Erlbaum Associates.

モデル

読解方略を説明するいくつかのモデルがある。例えば、以下の2つ。

理解の深さに関する3因子(犬塚モデル)

理解の程度によって、どういう手続きをしているかを示したもの。言い換えや読み速度を落としたりするのが浅め、自分が知っている事柄と結び付けて読むのが深め。

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図1 3因子モデル

犬塚美輪 (2002). 説明文における読解方略の構造 教育心理学研究, 50, 152-162.

犬塚美輪 (2009).  メタ記憶と教育 第9章 清水寛之(編)メタ記憶―記憶のモニタリングとコントロール― 北大路書房

読解方略の4面モデル(McNamara, Ozuru, Best, O'Reilly)

メタ認知(認知を認知すること)が中心にあるとして、①まず読む状態を作り、②字面を追い、③文の構成を大掴みし、④内容を理解する、といった4つの側面を持つモデル。

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図2 4面モデル

McNamara, D. S., Ozuru, Y., Best, R., & O'Reilly, T. (2007). The 4-pronged comprehension strategy framework. In D. S. McNamara (Ed.), Reading comprehension strategies : Theories, Interventions, and Technologies (pp. 465-491). New York : Lawrence Erlbaum Associates.

効果

手続きが示されると、読解が促進される。また、手続きの違いによって効果も異なる。例えば、要約文の作成という手続きは、文章内容の正確な理解という効果をもたらす。また、テーマに関する知識を増やす/豊かにするという手続きは、文章内容をより深く理解するという効果をもたらす。

秋田喜代美 (1988). 質問作りが説明文の理解に及ぼす効果 教育心理学研究, 36, 307-315.

Chemielewski, T. L., & Dansereau, D. F. (1998). Enhancing the recall of text : Knowledge mapping training promotes implicit transfer. Journal of Educational Psychology, 90, 407-413.

石田 潤・桐木建始・岡 直樹・森 敏昭 (1982). 文章理解における要約作業の機能 教育心理学研究, 30, 322-329.

笠原正洋 (1991). 読解過程での自己質問生成が説明文の理解・記憶に及ぼす影響 認知・体験過程研究, 1, 77-108.

Martin, V. L., & Pressley, M. (1991). Elaborative-interrogation effects depend on the nature of question. Journal of Educational Psychology, 83, 113-119.

Spires, H. A., & Donley, J. (1998). Prior knowledge activation : Inducing engagement with informational texts. Journal of Educational Psychology, 90, 249-260.

所感

読んで理解するとは何か。その認知プロセスを示すサマリー論文があったので、本記事では、doksyo-tekの理解も兼ねてまとめています。

読解方略とは、人が本を読むという行為を通じて、どうやって本に書かれている内容を獲得するのかというプロセスを研究する領域のようです。いくつかのモデルが提案されており、またその効果も様々な視点で検証されています。

3因子モデルなどを眺めていると、読書術などで見られる方法論などは、こういうモデルに裏打ちされているのかもしれないと思いました(直接的にモデルを意識していなくとも、経験則が実はモデルに落とし込めるものだった、ということかもしれませんが)。

さて、論文ではこの後、手続きはどう示されるべきか(教示されるべきか)といったいくつかの指導パターンや、どう実践すべきかという実例、また、新たな課題として①紙に代わるデバイス、②映像音声等を用いたマルチメディアコンテンツ(マルチメディアって最近言わなくなった気がする)、③ハイパーリンク等のウェブ要素、などに触れています。このあたりは、この次の記事でまとめてみたいと思います。