読書的な何か。

読書と読書にまつわるテクノロジー、雑記など。

紙とディスプレイ -表示媒体の違いにおける読みやすさ(6)

はじめに

これまでの経緯は、以下の記事になります。

今回も下記論文のDigital reading(デジタル読書)に関する研究トピックスを読んでいきます。今回は研究トピックスその4「Multi-tasking and learning」(マルチタスクと学習)です。

Ziming Liu: "Digital reading: An Overview", Chinese Journal of Library and Information Science (English edition), 5.1, p.85-94(2012)

Multi-tasking and learning(マルチタスクと学習)

読書中のマルチタスク(テレビを見ながら読書、ラジオを聴きながら読書など)は古くからある課題ですが、オンライン読書環境は、この課題を注意レベルに押し上げています。

Ziming Liu(San Jose State University)
  • 多くの人々(特に若者)は複数のウィンドウを立ち上げ、いくつかのタスクを同時にする傾向にある
  • Liuの研究参加者は次のように述べている:「オンライン読書中、私の注意力は低くなっている。サッカーの得点と株価、お気に入りのサイトをチェックしつつ、メールの着信音に耳を傾けている。」

Liu, Z. "Reading behavior in the digital environment: Changes in reading behavior over the past 10 years", Journal of Documentation, 61(6), p700-712(2005).

Joshua S. Rubinstein(Federal Aviation Administration)、David E. Meyer、Jeffrey E. Evans(University of Michigan)
  • 前後2つのタスクを切り替えるような、マルチタスクを行う人々は、ただ1つのタスクに集中する場合と比べ、50%より多くの時間を費やす

Rubinstein, J. S., Meyer, D. E., & Evans, J. E. "Executive control of cognitive processes in task switching", Journal of Experimental Psychology: Human Perception and Performance, 27(4), p763-797(2001).

Sven Birkerts(American essayist / literary critic)
  • デジタル環境で育つ若い世代は、読書において、深く読むこと、そしてそれらを長く維持する能力が欠如している

Birkerts, S. "The Gutenberg elegies: The fate of reading in an electronic age", Boston, MA: Faber and Faber(1994).

M. O. Thirunarayanan(Florida International University)
  • Webが増加すると、目的のないサイバー徘徊行動が定着する。このような行動は、最終的に「意味のある思考の代替」となってしまう

Thirunarayanan, M. "From thinkers to clickers: The World Wide Web and the transformation of the essence of being human", Ubiquity, 4(12)(2003).

Ralph Raab(a teacher of music, computers, and study skills)
  • 青年期に頻繁にテレビを見ることは注意不足を引き起こしている
  • ブログより長いものを読むという能力に対して、新しい技術はどんな効果があったのか疑問である

Raab, R. "Books and literacy in the digital age", American Libraries(2010).

Barry W. Cull(University of New Brunswick
  • 持ち運びができるデバイスの増加で、人々は携帯電話のテキストメッセージのような常時接続に夢中だ

Cull, B.W. "Reading revolutions: Online digital text and implications for reading in academe", First Monday, 16(6)(2011).

筆者によるまとめ
  • 多くの研究者は、学習する上で、表面的なデジタルリテラシーの潜在的な影響について懸念している
  • デジタル技術は私たちが理解の向上に役立つ情報にアクセスすることを容易にした。その反面、読者が読むべき「材料」の選択と優先順位付けをする必要がでてきた
  • 今後は、学習上の長期的な影響(気晴らし、記憶保持など)に焦点を当てるべきだ

簡単な所感

このパートで述べられていることは、「デジタル読書の振る舞いについて」の所感で示したとおり、「大量の情報から所望の情報をいち早く入手する読み方がデジタル向きで、頭の中で繰り返したりあれこれ思考をする読み方が紙向きである」ということを裏付けています。

大量の情報から所望の情報を得るためには、多方向にアンテナを張っておく必要があります。そして、ひとつひとつの情報に対して、深く吟味するよりも瞬時に要不要の判断が求められる。となると、紙に比べディスプレイは判断に必要なシステム要件(検索、リンク参照、コピペ等)が求められますし、「紙 vs デジタル」で示した「カジュアルで、メールのような短文」のほうが判断がしやすいということになります。

ここで気になるのは、Thirunarayananが指摘している、「サイバー徘徊行動の定着が最終的に"意味のある思考の代替"となってしまう」、という点です。この懸念は、レポートや論文をコピペで組み立てたり、提案資料にどこかのサイトの情報をそのまま貼り付ける等の行為に見られるように、徘徊に疲れ、他人の情報をそのまま「意味のある思考」として取り入れてしまう行為につながっているのかもしれません。そして、そのような行為の中で読書は行われていないのだと思います。

ここまで読んでみて、なんとなくですが、1回目で示した実験結果「紙媒体のほうがディスプレイより理解できる」の意味がわかってきた気がします。

次回の研究トピックスその5「Technological advancement and traditional attachment」(最後のトピック!)を踏まえ、まとめをしたいと思います。