拡張する書籍
"文章・絵画などを筆写または印刷した紙の束をしっかり綴(と)じ合わせ、表紙をつけて保存しやすいように作ったもの。巻き物に仕立てることもある。多く、雑誌と区別していう。書物。本。図書。しょじゃく。→電子書籍"
これはコトバンクの「書籍」の定義です。いわゆる本の定義ですが、最近この定義を覆すいろいろな拡張が見られます。
例えばこれ。
Sensory Fiction | MAS S65: Science Fiction to Science Fabrication
MIT Media Labで開発されたコンセプト本です。本とウェアラブルデバイス(下のリスト)が物語のシーンと連動して動作し、読む行為を拡張します。
- 150のLEDライト
- 音
- パーソナルヒーティングデバイス(温める)
- 心拍と連動したバイブ
- 圧縮システム(エアバック)
Media Labは他にも面白い取り組みがいくつかあります。Bove教授のObject Based Media Groupでは、Narratariumというプロジェクトがあります。これは360度コンテキストアウェアプロジェクタを活用した没入感の拡張を目指しています。例えば、読み聞かせ時にお母さんの声を解析し、言葉の意味や声の調子から部屋全体の色のトーンを変えたり、音を出したりして、子どもがより没入感を味わえる演出をしています。
また、NeverEnding Drawing Machineプロジェクトでは、ストーリー作りのためのインタラクティブな紙プラットフォームを模索しています(ムービーを見れば雰囲気がわかります)。このプロジェクトは終了しており、現在はCalliopeプロジェクトが引き継いでいます。読み書き環境の拡張に近いですが、その中心には拡張した書籍が据えられています。
他にも、コンセプトレベルでこれからという感じですが、「Future of storytelling」というプロジェクトも始まっているようです。ストーリーテリングは、拡張する書籍、ひいては技術による読書拡張の一進化系だと思います。
MIT関係ばかりになってしまいましたが、他にも、アクセシビリティを重視したこんな本も。メイカームーブメントも、本とどう関わっていくのか楽しみな分野の一つだと思っています。
気になった取り組みを何点か書きましたが、「従来の書籍を拡張する」ということは次の2つの方向性があるのかもしれません。
- 深く読む行為に没入できる、コンテキスト・プロデュースド・コンテンツ
- 文脈や雰囲気、臨場感の演出
- Sensory Fiction、Narratarium、Future of storytelling等
- 誰もが分け隔てなく読むことができる、アクセシブル・リーディング・コンテンツ
- 身体能力の異なり(幼児~高齢者、健常/障がい者)に応じたコンテンツの構築
- NeverEnding Drawing Machine、Calliope、Tactile Picture Books Project等
もちろん、「従来の書籍を拡張する」の元祖、飛び出す書籍もがんばっています! これ、欲しいなぁ。
以下、参考図書です。
MIT Media Labのビジョン、コンセプト、具体的な取り組みを概観するのにピッタリな一冊です。メディアの未来がわかります(たぶん)。
▼フランク モス,Frank Moss,千葉 敏生著「MITメディアラボ―魔法のイノベーション・パワー」(早川書房)
メイカームーブメントの火付け役。デジタル製造の潮流は、書籍づくりにも影響を与えるのでしょうか。
▼クリス・アンダーソン,関美和著「MAKERS―21世紀の産業革命が始まる」(NHK出版)
これ、実は読んでいません。が、いろんな方からコンテキストを語るなら読めと言われた本。名著らしいので、そのうち読んでみたいなと。
▼エドワード・T. ホール,Edward T. Hall,岩田 慶治,谷 泰著「文化を超えて」(阪急コミュニケーションズ)