紙とディスプレイ -表示媒体の違いにおける読みやすさ(3)
おさらい
前々回は、紙とディスプレイの違いについて整理し、本を読むときの要素(注力できる要素⇔注意をそらす要素)に着目しました。
それを受けて前回は、認知科学系の論文を数本サーベイしました。
- ディスプレイより紙のほうが文脈記憶や読解テストの結果が良い[Mangen13][Mangen14]
- ディスプレイ上では読解以外のインタラクションがワーキングメモリを消費している[Wastlund08]
これらから、紙の置き換えとしてディスプレイがあるのではなく、紙とディスプレイは別モノで、それぞれに適した読みやすさ要素があるという仮説を立てました。
しかしながら、仮説を検証できるほど、この研究領域に対する情報が足りていません。そこで、もう少しサーベイを続けたいと思います。
論文概要
今回ピックアップした論文は、サンノゼ州立大学のZiming Liu教授が2012年に発表した論文です。
この論文はDigital reading(デジタル読書)に関する研究トピックスを概観し、各トピックを比較評価することで今後の研究の方向性を示しています。まさにピッタリ!
具体的には、以下の5つのエリアを対象としています。以降、各エリアの詳細をみていきます。
- Digital reading behavior
- Print vs digital
- Preference for reading medium
- Multi-tasking and learning
- Technological advancement and traditional attachment
Digital reading behavior(デジタル読書の振る舞いについて)
ガートナー社(米ITコンサル)
- 人々の読む時間は紙とディスプレイが同じくらいになってきており、デジタル情報の増加は、人々の読書行動に影響を及ぼし始めている
Ziming Liu(サンノゼ州立大)
- 人々の読書行動が過去10年でどのように変化したかを分析、デジタル環境における読書行動について調査
- デジタル読書の時間的増加に伴い、スクリーンベースの読み取り動作が現れており、深い読書・集中する読書・持続的な注意を要する読書が減る一方で、以下のような特徴が見られる
David Nicholas、Ian Rowlandsら(共にユニバーシティカレッジロンドン)
Terje Hillesund(スタヴァンゲル大)
Michael Baumann
- 集中を要する読書は紙で行われており、オンラインのデジタル読書は不連続の傾向にある
- 学生の6%、教授の8%は完全に「調べもの」のために電子書籍を読む
Baumann, M.: "E-books: A new school of thought", Information Today, 27(5), p1-48(2010)
Anne Mangen(スタヴァンゲル大)
- デジタル読書は浅く、集中的に読めない状態に支配されている
Nicholas Carr
Carr, N.: "The shallows: What the Internet is doing to our brains", New York, NY: W.W. Norton(2010)
Barry Cull(ニューブランズウィック大)
- インターネットは瞬時に知識を得たかのような錯覚をもたらしており、そのようなオンライン文化の影響を受けた世界では、やる気を持続させないと、深い読書はできない
簡単な所感
Cullが述べるように、インターネットがもたらしたオンライン文化がザッピング的な、拾い読みの文化であることを前提とすると、単に読み方が異なると捉えるのがよさそうです。
つまり、大量の情報から所望の情報をいち早く入手する読み方がデジタル向きで、頭の中で繰り返したりあれこれ思考をする読み方が紙向きである、と言えそうです。どちらも大事な読み方ですが、確かに別モノかもしれません。
今回は「Digital reading behavior」を取り上げました。今後、残りの4エリアを概観し、自分なりに整理してみようと思っています。次回は「Print vs digital」エリアについて取り上げようと思います。
しかし、The Shallows(邦題:ネット・バカ)でも読書について言及していたのか。。今度読んでみようかな。