読書的な何か。

読書と読書にまつわるテクノロジー、雑記など。

書評『本を読むときに何が起きているのか』

今のところ、今年一番の面白い本に巡り合った気持ちでいます。

本を読むとき、我々に何が起きているのか。通常、計り知ることが非常に困難な読書時の内的な状況について、図と引用と考え方を交えてヒントを提示してくれる本です。そうなんです。この本はヒント集・仮説集のようになっていて、読めば読むほど(眺めれば眺めるほど)具体的に仮説を立てて検証してみたくなるんです。非常に刺激される本です。それだけ、著者の表現に共感を覚えているということなのでしょうか。

解説によれば、本書は「図解現象学であるとのこと。英語版タイトル副題は「A Phenomenology with Illustrations」。現象学についての知見が乏しいので調べてみると、「感覚的経験に与えられる現象・仮象を扱う学。」という定義がありました。なるほど、「本」と「人」とその間を媒介する「モノ」とを(図解の対象となる情報、とでも言うのかな)「感覚的経験に与えられる現象」として捉える試み、とすると、それなりにしっくりくる副題だと思います。

kotobank.jp

中身も工夫されていて、見出し毎に様々な切り口を提示しつつ、実際の小説等から引用される事例は一貫していたりします。この本そのものの読書を通じて、多面的に「読む」という行為がもたらす内面の活動を表現しようと試みているのではないでしょうか。

以下、特に気に入ったフレーズを2つほどご紹介し、この本から私が感じた「読書する」ことの意味についてご紹介してみたいと思います。今後、この本からヒントを得ることが多くなりそうです。

SKILL(技)

本は、私たちにある種の自由を与えてくれる。本を読む時、精神的に活動的になることができる。私たちは物語の(思い描く行為の)正真正銘の参加者なのである。(p192)

IT IS BLURRED(ぼやけて見える)

作家の世界観をできるだけ自分たちの中に飲み込んで、私たちの思考の中にある蒸留機の中で、その素材を自分たち自身の世界と混合し、組み合わせ、何か唯一独特のものに変質させるのだ。

私はこれがあるから読書が「機能する」のだと言いたい。本を読むことは、読者が世界を知るためのこの手順の反映である。世界についての真実を物語が教えてくれるということでは、必ずしもない(教えてくれることもあるかもしれないが)。本を読むという活動は、意識そのもののように感じ、また、意識そのもののようなものだ。つまり不完全で、部分的で、かすみがかっていて、共同創作的なものなのである。(p403)

ピーター・メンデルサンド,山本貴光,細谷由依子著「本を読むときに何が起きているのか ことばとビジュアルの間、目と頭の間」(フィルムアート社)
4845914522

【追記 2015.9.11】

表紙の書影に変更しました。Amazonアソシエイトリンク、いろんなパターンが選べることに今更気づきました。。